2011.01.15
「大黒柱」仙谷氏を失った菅第2次改造内閣 ここで菅首相が「はりきって」しまうと危ない
asahi.com - 新内閣、主要テーマは税制・社会保障 代表代行に仙谷氏(2011年1月14日11時28分)
http://www.asahi.com/special/minshu/TKY201101140176.html


記者会見する仙谷由人前官房長官=14日午前10時8分、首相官邸、竹谷俊之撮影

<菅直人首相(民主党代表)は14日、内閣改造を行う。たちあがれ日本を離党した与謝野馨氏を経済財政相に充てるほか、海江田万里経済財政相を経済産業相に、大畠章宏経産相を国土交通相にそれぞれ横滑りさせる。また、仙谷由人官房長官が兼務していた法相には江田五月前参院議長が就任するほか、中野寛成・民主党両院議員総会長が国家公安委員長として入閣する。党役員人事では仙谷氏を代表代行、鉢呂吉雄国会対策委員長の後任に安住淳防衛副大臣の起用を決めた>。

仙谷氏を更迭し、たちあがれ日本を辞めた与謝野馨氏らを迎える菅第2次改造内閣。その顔ぶれが決まった。



仙谷氏を失ったこの新内閣について、田中秀征氏がこう書いている。

ダイヤモンド・オンライン : 田中秀征 政権ウォッチ - 仙谷官房長官がついに無念の更迭へ “大黒柱”を失った菅内閣の迷走と崩壊
http://diamond.jp/articles/-/10750

<やはり問題は仙谷官房長官の更迭。良くも悪くも内閣の大黒柱であった彼が下野すれば菅直人内閣の迷走は一段と深刻にならざるを得ない。
 仙谷長官は、菅首相を守る防波堤の印象が強かった。防波堤が撤去されれば、大波が直接菅首相を襲うことになる。首相には大波小波を手際よくさばく能力が極度に不足している>。

<メディアの論調は、首相は仙谷官房長官を留任させたかったけれどできなかったという見方で一致している。だが、私はそうだと断言できないと思っている。
 ひょっとすると菅首相の本心は仙谷官房長官を辞めさせたかったのかもしれない。仙谷長官のところに人も情報も集まり、首相のところには人も情報も集まらないというから、快いはずがない。政権の実権を仙谷氏が握っていれば、首相は飾り物に近い存在になる。首相が存在感を示すために、唐突な発言をすることも理解できよう>。

仙谷官房長官が菅内閣の「大黒柱」であったことは、誰の目にも明らかだろう。「仙谷内閣」と揶揄されるほど、これまでの菅内閣では仙谷氏の存在感が大きかった。

ここで田中氏が書いているような、菅首相の「本心」があるのかどうかはわからない。しかし、仙谷氏の存在感がそれほど大きかったことは、菅首相にとってはあまり面白くないという気持ちはあっただろう。

野党が問責決議で仙谷氏を引きずりおろそうとしたのも、仙谷氏が菅内閣の「大黒柱」だという前提があってこそだと思う。仙谷氏を引きずりおろせば、菅内閣はそのうち倒れる、というのが野党の「読み」だろう。仙谷氏の手腕には賛否両論あるだろうが、その存在感は少なくとも、よくいる無能な大臣とはまったく違っていた。仙谷氏は「やり手」であり、だからこそ野党にとっては「やりにくい」相手だったと思う。

そもそも菅氏が首相になれたこと自体、仙谷氏を含む前原・野田グループが一丸となって、代表選で菅氏を支持したというのが大きい。つまり菅氏はもともと、「反小沢派」の前原・野田グループから、いわば「担がれた」存在だった。

「仙谷内閣」と揶揄されるほど、菅氏より仙谷氏のほうが目立つという体制は、菅首相にとっては面白くないだろう。しかし、菅氏は明らかに政策能力が低いので、むしろ黙っていたほうが政権がうまくいくのである。ここまで菅内閣がなんとか維持できているのは、これまでの菅首相が、そこそこおとなくしていたからだと思う。

前の鳩山首相は、政権交代という偉業に酔いながら、はりきって次から次へとトンデモ政策を打ち出した。これがすごい早さで問題を積み上げていき、日本をどんどん苦境に陥れていくのを、国民は目撃した。民主党に票を入れた人ですら、「これならむしろ自民党のほうがよかった」と思った人は少なくないだろう。

この鳩山首相が日本に与えたダメージがあまりにも大きかったので、次の菅首相はほとんど何もしなくても、「鳩山よりマシだ」と思ってもらえた。つまり「役得」なのだ。菅内閣は、民主党が掲げてきた「脱官僚」もすっかり放棄して、むしろ官僚ベッタリになっている。ほとんど自民党時代と見分けがつかないほどだが、それでも「鳩山よりマシ」なことは確かなのだ。

そのうえ菅首相は、「反小沢派」の前原・野田グループに担がれたことで、「反小沢」というイメージも利用できた。国民に不人気の小沢氏を「敵役」に据えることで、自分は「正義」というポジションに立てる(実際、政治家としての「潔白」という意味では、菅氏は申し分ないだろう)。これも「役得」だった。

しかし唯一、自分にリーダーの実質的な権限がないというところが、菅首相にとっては不満だっただろう。しかし、いまの菅内閣が成立した経緯を考えれば、ここで菅氏が「はりきって」しまうことは、2重に危険なのである。

1:鳩山首相と同様、政策能力が低いのに「はりきって」しまい、トンデモ政策をやる。
2:前原・野田グループに担がれて首相になったのに、リーダーとしての実権を発揮しようとして、前原・野田グループにそっぽを向かれる。

1は日本国民にとっての危機である。2は国民にとっての危機かどうかわからないが、菅内閣が揺らぐことは間違いない。実際、「大黒柱」の仙谷氏を更迭して、たちあがれ日本を抜けてきた与謝野氏を迎えるという微妙な人選は、崩壊の予兆という気がする。

菅氏は政策能力もリーダーシップもないのだから、いちばん先に交代すべきなのは菅首相自身だろう。菅氏が首相に居座りつづける限り、政権への支持率も、民主党の人気も下がりつづけると思う。民主党が政権を維持したいなら、いまこそ前原氏を首相にすべきではないか。

前原氏は政策能力もあり、国民人気も高い。アメリカからも次期首相と有望視されているようだし、中国や韓国なども、はっきりものを言う前原氏には一目置いているように見える。いまの日本の政治家で、これほど内外から注目され、評価の高い人というのは、ちょっと思い当たらない。

そして、もし前原氏が首相になれば、その政策的なポジションからいっても、自民党やみんなの党との連携もしやすくなるだろう。これで国会運営の行き詰まりも打開できる。

私はこの「前原首相論」を、まだ鳩山・小沢コンビが辞めていなかった昨年の5月に初めて書き(「民主党の非小沢系、みんなの党、自民党の改革派が「行政改革」で結集するのが日本政治のベストシナリオだ」)、その後も何度か書いている(「鳩山首相・小沢幹事長辞任 これで前原グループが主流化すれば、みんなの党との連立もありえるのでは」、「菅直人氏、第94代首相に 小沢氏はキングメーカーでなくなり、「反小沢派」が「主流化」しつつある」)。この考えはいまでも変わっていない。私は政策的に言えば、みんなの党をいちばん支持しているが、みんなの党が政権を獲るまでには時間がかかる。より現実的な路線、「手のとどく果実」としては、民主党の非小沢系(前原・野田グループ)、みんなの党、自民党の改革派が組むというのがやはりいいと思う。


関連エントリ:
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http://mojix.org/2010/06/03/hatoyama_ozawa_jinin