事業仕分けは人間がやるべきものではなく、「市場」がやるべきもの
連日何かと話題の事業仕分け。財務省主導だとか、ほんとうに切るべきところは切っていないとか、文句をつければいくらでもあるが、少なくとも鳩山政権がこれまでやってきたことの中では、評価できるものだと思う。
実際の削減額は少なくても、政府が税金を使って何をやっているのか、それがどういう理屈で続けられてきたのか、ということの一端がわかり、国民の注目を集めたことの意義が大きい。一部を見れば、全体も予想がつくからだ。
本来なら、政府がやっていることをひとつ残らず「仕分け」して、どうしても政府でなければできないことだけを残し、あとは全部民営化すべきである。社会がほんとうに必要としている事業は、民営化しても成立する。逆に社会が必要としていない事業は、民営化すれば自立できないので、自然に消えていく。
スパコン予算をはじめ、「この事業は要るか、要らないか」「どのくらいの規模にすべきか」を事業仕分けで勝手に決められることに憤慨している人もいるが、そもそも政府がカネを出すこと、つまり税金を投入することを当然だと思っている神経が、私には理解できない。それも、ノーベル賞をもらうような学者ですらそうなのだ。
海外に比べると、日本の大学や研究所は「経営」の視点に欠けており、国からカネを入れてもらうのが当たり前だという考え方が強い、という話をしばしば聞くが、今回のスパコンをめぐる議論でも、これを再確認させられた思いだ。科学でノーベル賞をもらった学者でも、政治や経済でノーベル賞をもらったわけではない。経営者やフリーランスの人のように「自分で稼ぐ」経験をしておらず、いつも国からカネをもらっていれば、マトモな経済感覚がつかないのかもしれない。
スパコンに政府がカネを出すことを「技術立国日本として当然の投資だ」と考えるような発想は、先ごろの「マンガの殿堂」(国立メディア芸術センター)の議論で、「100年後には大きな国の財産になる」と言っていた人の発想と同じだろう。スパコンだろうが、マンガだろうが、どの分野だって、「われわれの分野は日本にとって重要である、だからカネを寄こせ」という意見が出てくる。実際のところは、将来の日本への投資というよりも、単にいまカネが欲しいだけだろう。科学や芸術への投資に価値がないわけではないのはもちろんだが、どんな分野であっても、税金による投資の「公益」を客観的に証明できるはずがない。
「あなたのためだから」というFX業者のCMがある(「ワールドビジネスサテライト」で見かける)。帰り際に残業をたくさん押しつける上司が、「あなたのためだから」と言う。女友達3人でケーキを食べているときに、ダイエット中の友達から他の2人がケーキを取り上げて「あなたのためだから」と言う。こういうCMだ。
「あなたのためだから」と言う人間に限って、大抵は自分の利益のために言っているものだ。「スパコンは日本にとって重要である」と思うならば、自分の身銭を切ったり、民間を説得すればいいのであって、国民の税金をアテにすべきでない。
しかし、スパコンを擁護する陣営などはまだかわいいもので、そもそも政府というものの存在自体が、この「あなたのためだから」で成立している部分が大きい。国民に対して「あなたのためだから」と言いながら、税金でいろいろなことをやる。しかし実際のところは、自分たちの利益や保身のためにやっている場合が多い。しょせん「他人のカネ」なので、自分のカネを使うような「痛み」を感じないのだ。
「仕分け」を人間がやっている限り、それがどんなに賢い人間であっても、「正解」には辿りつけない。仕分けは人間がやるべきものではなく、「市場」がやるべきものなのだ。計画経済が失敗し、市場経済が勝ち残ってきたことの意味がそれである。目指すべきなのは、「事業仕分けを正しくおこなう」ことではなく、そもそも「事業仕分けが不要になる」こと、つまり政府の事業そのものをできるだけなくすことだ。
関連:
河野太郎公式サイト - 民主党の事業仕分け
http://www.taro.org/2009/11/post-661.php
池田信夫 blog - 民主党の意図せざる革命
http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51319914.html
オックスフォードの環境博士 - ODAと研究費の事業仕訳
http://blog.takeshitakama.com/2009/11/oda.html
関連エントリ:
「必要とされている仕事」と「必要とされていない仕事」
http://mojix.org/2009/11/21/hitsuyou_sigoto
「弱者をダシに使って、自分がカネや権力を得る」というビジネスモデル
http://mojix.org/2009/10/04/jakusha_dashi_business
自民党・無駄遣い撲滅プロジェクトチーム「国立メディア芸術センターはまったく不要」
http://mojix.org/2009/06/12/mudabo_media_center
「マンガの殿堂」国立メディア芸術総合センター(仮称)に117億円の税金を投入すべきか
http://mojix.org/2009/06/07/manga_dendou
実際の削減額は少なくても、政府が税金を使って何をやっているのか、それがどういう理屈で続けられてきたのか、ということの一端がわかり、国民の注目を集めたことの意義が大きい。一部を見れば、全体も予想がつくからだ。
本来なら、政府がやっていることをひとつ残らず「仕分け」して、どうしても政府でなければできないことだけを残し、あとは全部民営化すべきである。社会がほんとうに必要としている事業は、民営化しても成立する。逆に社会が必要としていない事業は、民営化すれば自立できないので、自然に消えていく。
スパコン予算をはじめ、「この事業は要るか、要らないか」「どのくらいの規模にすべきか」を事業仕分けで勝手に決められることに憤慨している人もいるが、そもそも政府がカネを出すこと、つまり税金を投入することを当然だと思っている神経が、私には理解できない。それも、ノーベル賞をもらうような学者ですらそうなのだ。
海外に比べると、日本の大学や研究所は「経営」の視点に欠けており、国からカネを入れてもらうのが当たり前だという考え方が強い、という話をしばしば聞くが、今回のスパコンをめぐる議論でも、これを再確認させられた思いだ。科学でノーベル賞をもらった学者でも、政治や経済でノーベル賞をもらったわけではない。経営者やフリーランスの人のように「自分で稼ぐ」経験をしておらず、いつも国からカネをもらっていれば、マトモな経済感覚がつかないのかもしれない。
スパコンに政府がカネを出すことを「技術立国日本として当然の投資だ」と考えるような発想は、先ごろの「マンガの殿堂」(国立メディア芸術センター)の議論で、「100年後には大きな国の財産になる」と言っていた人の発想と同じだろう。スパコンだろうが、マンガだろうが、どの分野だって、「われわれの分野は日本にとって重要である、だからカネを寄こせ」という意見が出てくる。実際のところは、将来の日本への投資というよりも、単にいまカネが欲しいだけだろう。科学や芸術への投資に価値がないわけではないのはもちろんだが、どんな分野であっても、税金による投資の「公益」を客観的に証明できるはずがない。
「あなたのためだから」というFX業者のCMがある(「ワールドビジネスサテライト」で見かける)。帰り際に残業をたくさん押しつける上司が、「あなたのためだから」と言う。女友達3人でケーキを食べているときに、ダイエット中の友達から他の2人がケーキを取り上げて「あなたのためだから」と言う。こういうCMだ。
「あなたのためだから」と言う人間に限って、大抵は自分の利益のために言っているものだ。「スパコンは日本にとって重要である」と思うならば、自分の身銭を切ったり、民間を説得すればいいのであって、国民の税金をアテにすべきでない。
しかし、スパコンを擁護する陣営などはまだかわいいもので、そもそも政府というものの存在自体が、この「あなたのためだから」で成立している部分が大きい。国民に対して「あなたのためだから」と言いながら、税金でいろいろなことをやる。しかし実際のところは、自分たちの利益や保身のためにやっている場合が多い。しょせん「他人のカネ」なので、自分のカネを使うような「痛み」を感じないのだ。
「仕分け」を人間がやっている限り、それがどんなに賢い人間であっても、「正解」には辿りつけない。仕分けは人間がやるべきものではなく、「市場」がやるべきものなのだ。計画経済が失敗し、市場経済が勝ち残ってきたことの意味がそれである。目指すべきなのは、「事業仕分けを正しくおこなう」ことではなく、そもそも「事業仕分けが不要になる」こと、つまり政府の事業そのものをできるだけなくすことだ。
関連:
河野太郎公式サイト - 民主党の事業仕分け
http://www.taro.org/2009/11/post-661.php
池田信夫 blog - 民主党の意図せざる革命
http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51319914.html
オックスフォードの環境博士 - ODAと研究費の事業仕訳
http://blog.takeshitakama.com/2009/11/oda.html
関連エントリ:
「必要とされている仕事」と「必要とされていない仕事」
http://mojix.org/2009/11/21/hitsuyou_sigoto
「弱者をダシに使って、自分がカネや権力を得る」というビジネスモデル
http://mojix.org/2009/10/04/jakusha_dashi_business
自民党・無駄遣い撲滅プロジェクトチーム「国立メディア芸術センターはまったく不要」
http://mojix.org/2009/06/12/mudabo_media_center
「マンガの殿堂」国立メディア芸術総合センター(仮称)に117億円の税金を投入すべきか
http://mojix.org/2009/06/07/manga_dendou