2013.03.26
解雇規制という「ゲームデザイン」は間違っている
東洋経済オンライン - ソニー「中高年リストラ」の現場 「キャリアデザイン室」で何が行われているか?(2013年03月25日)
http://toyokeizai.net/articles/-/13335

<東京・品川のソニー旧本社ビル──。現在、「御殿山テクノロジーセンター NSビル」と改称された8階建てのビルの最上階に、問題とされる部署はある>。

<「東京キャリアデザイン室」。かつて大賀典雄名誉会長が執務室を構え、役員室が置かれていた由緒正しきフロアは今、社内で「戦力外」とされた中高年の社員を集めてスキルアップや求職活動を行わせることを目的とした部署に衣替えしている>。

<Aさん(50代前半)も東京キャリアデザイン室への異動を命じられた一人だ。午前9時前に出勤すると、自身に割り当てられた席に着き、パソコンを起動させる。ここまでは普通の職場と変わりない>。

<違っているのが“仕事”の中身だ。会社から与えられた仕事はなく、やることを自分で決めなければならない。「スキルアップにつながるものであれば、何をやってもいい」(Aさん)とされているものの、多くの社員が取り組んでいるのは、市販のCD-ROMの教材を用いての英会話学習やパソコンソフトの習熟、ビジネス書を読むことだ>。

ソニーのいわゆる「追い出し部屋」をレポートした記事。見事な内容なので、ぜひ全部読んでみてほしい。

リストラ対象者を集める「追い出し部屋」というものは、日本では企業側から解雇することがむずかしいために、苦肉の策として編み出された仕組みである。「追い出し部屋」に入れて、まともな仕事を与えずに、自分から辞めると言わせるわけだ。

この記事では、ソニーの「追い出し部屋」である「東京キャリアデザイン室」がどういうものなのか、ソニー社員へのインタビューを通じて、詳しく書かれている。この記事の内容が正しいとすれば、ソニーの「追い出し部屋」は、冷酷というよりも、むしろ温情的だろう。給料をもらいながら、仕事をする必要もなく、自分のキャリアアップの勉強を、好きなだけできるのだから。

大半の人は、仕事だけでクタクタになり、なかなか勉強する時間が取れない、というのが普通だろう。給料だって、大半の人はソニーの社員より安い。この記事を読んで、私は「追い出し部屋」に入れられた社員よりも、むしろソニーに同情してしまった。

「追い出し部屋」という不条理な仕組みは、日本の雇用制度の矛盾を象徴している。解雇規制によって、企業が社員をクビにすることを封じているために、企業はこういうウソだらけの茶番を演じるしかない。企業だって、こんなバカバカしいことはやりたくないだろう。

解雇規制という制度設計、「ゲームデザイン」が、そもそも間違っているのだ。このゲームデザインのもとでは、新卒で公務員や大企業の社員になれたかどうかで、一種の「階級」「身分制度」ができてしまう。それが収入の格差を生むだけでなく、「身分」の安定度が「与信」の格差につながり、住宅も含めた生活全般にわたって、絶対的な格差として固定化されていく。人生の経路が、初期状態に強く依存していて、「やりなおし」が効かない。日本では、失敗は許されないのだ。

「身分制度」がある社会では、収入や待遇を決めるものは、実力や成果ではなく、身分である。こういう社会では、身分が上の人は、努力しなくなる。努力しなくても、いい給料がもらえるからだ。そして身分が下の人も、努力しなくなる。いくら努力しても、報われないからだ。

このゲームデザインは、まず明白に、不公平(アンフェア)である。そのうえ、身分が上の人からも、身分が下の人からも、がんばって働こうという意欲を失わせる。がんばって働こうという意欲が失われれば、価値の生産が減るので、国の経済は傾く。つまりこのゲームデザインは、不公平(アンフェア)なだけでなく、国民の意欲を失わせ、経済の成長をさまたげるので、国の政策としても失敗しているのだ。

努力しなくても高給がもらえたり、いくら努力しても安月給のままでは、誰も努力しなくなるのは当然だろう。このおかしなゲームデザインを変えない限り、日本は沈みつづける。


関連エントリ:
解雇規制が正社員を「身分」にしている
http://mojix.org/2012/12/03/kaikokisei-mibun
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http://mojix.org/2010/01/09/game_player_designer