2010.09.04
菅・小沢の民主党代表選はかなりいい勝負になる
ニューズウィーク日本版 : オブザーヴィング日本政治 - 小沢の神通力はもう通じない(2010年08月30日)
http://www.newsweekjapan.jp/harris/2010/08/post-61.php

<小沢の長い政治経歴のもっと別の時点であれば、政治的な奇跡を起こして、よその政党から議員をごっそり引き抜いたり、新たな連立政権を樹立したりして、「ねじれ国会」を解消して政権を安定化できたかもしれない。しかし、今の小沢に奇跡を起こす力はないと見なしてほぼ差し支えない>。

<小沢はエノック・パウエルの格言どおりの末路をたどることになるのではないかと、私には思える。数々の敗北と数々の勝利を経験してきた小沢の長い政治人生は、ついに敗北により締めくくられるときが来たのかもしれない。いま自分が首相になるべきだという説得力ある理由を小沢は示せていない。民主党代表選で投票する有権者たちも、それは感じているはずだ>。

田原総一朗 公式ブログ - 小沢さんの本音(2010年9月3日)
http://www.taharasoichiro.com/cms/?p=377

<僕は、小沢さんは代表選に出たくなかったはずだと考えている。
出ると負けるからだ。
小沢さんの出馬に対する国民の反対の声は強い>。

<もし代表選に出馬して負ければ、小沢さんの政治生命は終わる。
小沢さんとしては、出馬しないで生きながらえる方法を考えていたのだと思う。
だから、出ない事を前提として鳩山さんを通して菅さんに色々注文を付けていた>。

<僕は菅・鳩山会談で、トロイカ+1を両者が了承した事で
小沢さんの出馬はないと思った。
トロイカ+1ということは、仙谷さんと枝野さんを外すということだからだ。
だが、後任の名前を小沢さん側が求めたのに対して、菅さんは出さなかった。
これが小沢さんが出馬を決意した要因だと思う。
小沢さんは本当は総理にはなりたくないのだと僕は思う>。

トバイアス・ハリス、田原総一朗の両氏とも、基本的には好きな論者なのだが、なぜ小沢が負けるとここまで断言できるのか、理解できない。私は、かなりいい勝負になると見ている。

今回、「反小沢派」側から菅氏でなく前原氏が出ていれば、おそらく前原氏の圧勝だっただろう(6月の代表選時点で、日経の調査では前原氏は国民人気でトップだった)。しかし菅氏を担いでしまったことで、反小沢派の勝利が危うくなりつつある。これが私の情勢分析だ。

いまの菅政権は事実上、前原氏らの反小沢派が牛耳っている。菅氏は6月の代表選で、その反小沢派に「担がれて」勝利した。もしその時点で、反小沢派から仮に前原氏が出ていたとすれば、菅氏は小沢派から担がれていてもおかしくなかった。その時点では、反小沢派が菅氏を担ぐという「妙手」は正しかったし、それで菅氏は勝った。実際、勝ったのは菅氏というよりも反小沢派だったわけだ。

しかし、その後の菅氏の政権運営は実に冴えない。菅氏がもともと持っていた社会主義的な志向も変わらず、おかしな政策あいかわらず主張しつづけている。菅氏は「腹黒い」ところはまったくないクリーンな政治家だと思うが、ダメな政策をやってしまっては、経済を失速させ、国民を不幸にする。ダメな政策をやることは、「腹黒い」ことよりもはるかに罪深いのだ。

菅氏がこのていたらくでは、せっかく反小沢派の側を支持したいと思った人も、菅氏を支持するのはためらってしまう。つまり、菅氏の存在はいまや、反小沢派にとってむしろダメージになっているのだ。6月の代表選では、菅氏を担ぐことが「妙手」になって勝利を呼び込んだが、今回も菅氏を担いだのは「悪手」ではないだろうか。反小沢派にとって、これが「敗着」(負けを決める一手)になるかもしれない。

私は特に小沢支持ではないのだが、菅氏がこの調子では、「いちど小沢にやらせてみたらどうか?」と私ですら思わずにはいられない。

小沢氏はあまり民主的なタイプではないようで、どちらかといえば強権的で原理主義的であり、その意味では独裁に通じていく危険性がある。独裁の危険性は、どんなに意識してもしすぎることはないし、独裁に比べればヘボな民主政治のほうがまだマシと言えないこともない。しかし、いまの日本はあまりにも停滞しており、まったく変わる様子が見えない。これは要するに、既得権益に切り込むガッツのある政治家がいないために、既得権益が微動だにせず、変化が起きる余地がないからだ。小沢氏は、政策的には私は支持できないが、既得権益に切り込むガッツは疑問の余地がないだろう。

本来であれば、「正しい政策」をやるべきなのは言うまでもない。「正しい政策」を理解し実行できる政治家を、私も支持したい。しかし、いまの日本はまだその段階にすらなく、いわば「眠っている」ような状態だ。まずは、一部でもいいので既得権益を切り崩し、変化を起こして、国民レベルで「ケツに火をつける」必要がある。既得権益をがっちり握り、その上に眠る者たちに対して「ケリ」を入れ、「闘争」をはじめる必要があるのだ。

小沢氏が総理になれば、少なくとも「闘争」がはじまるだろう。いずれ「正しい政策」に行きつく必要があるが、そのためには、まず眠っている状態を脱出して、目を覚ます必要がある。小沢氏は、良くも悪くも「劇薬」なので、少なくとも眠っている日本の目を覚ましてくれるだろう。

本来であれば、昨年の総選挙で起きた「政権交代」が、その変化のはじまりのはずだった。しかし、鳩山政権は何も変えられず、むしろ迷走を繰り返し、「これなら自民党のほうがまだマシだった」と多くの国民を失望させた。

そして菅政権になり、現実を学んで成長した部分もありつつも、現実を学びすぎた(?)せいか、改革がすべて引っ込んでしまった。鳩山・小沢コンビが辞めて急上昇した支持率も一瞬でしぼんでしまい、国民が民主党政権にあらためて失望している、というのが現状だろう。

こうしたプロセスを経て、国民は「ほんとうの政権交代」「真の変革」を望んでいるのだが、総選挙にならない限り、その民意を表現できない。民主党は政権を手放さないまま、代表=総理を次々に変えつつあり、今回の「トロイカ」騒ぎでも派閥的なポスト配分で密室的に代表を決めようとする動きが報じられるなど、まるで昔の自民党である。

今回の民主党代表選というのは、国民はこれに直接口出しはできないものの、民主党の議員と党員がどちらを選ぶのか、ニラミを効かせているという状況だろう。議員票の派閥規模からいうと小沢氏が有利なようだが、議員は地元の支持者の意向も汲む必要があるし、世論の「風向き」も見るだろうから、派閥の規模だけではすんなり小沢氏勝利とは行かないように思う。

「世論的な勝敗」という意味では、菅氏はダメな政策とヘボな政権運営、小沢氏は国民的不人気というどちらもマイナス要因が大きいので、基本的には「どっちもダメだが、どっちがマシか」という「消極的選択」の争いだろう(まるで昨年の総選挙そのままである)。「真の変革」をもたらしてくれそうだという意味では、政策や政権運営力は未知数だが、剛腕イメージのある小沢氏のほうが有利なのではないか。これが小沢氏の不人気をどれくらい埋め合わせるかが、「世論的な勝敗」の鍵を握るポイントだろう。

私はこのように見ているので、「かなりいい勝負になる」と思っている。またどちらが勝っても、負けた側の勢力が民主党を離脱する動きになり、民主党は分裂するだろう。これは政界再編につながるので、いいことだ。日本政治には真に政策ベースの「対立軸」が欠けており、それを形成できるまで、政界再編という「席替え」を何度でも繰り返す必要がある。


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