2012.11.19
日本維新の会が太陽の党を飲み込み、石原氏が維新代表に もはや「なんでもあり」の超現実主義
毎日新聞 - 維新の会:太陽が合流、代表に石原氏 1次公認47人発表(2012年11月17日 17時23分(最終更新 11月18日 00時59分))
http://mainichi.jp/select/news/20121118k0000m010008000c.html


日本維新の会の全体会議で握手する石原慎太郎代表(右)と橋下徹代表代行=大阪市住之江区で2012年11月17日午後4時49分、後藤由耶撮影

<日本維新の会は17日、大阪市内で全所属国会・地方議員による全体会議を開き、太陽の党が解党して維新に合流したと発表した。新代表には太陽の石原慎太郎共同代表が就き、維新代表だった橋下徹大阪市長は代表代行に就任した。維新はさらにこの日、衆院選の1次公認候補47人を発表。石原氏はみんなの党との選挙協力協議を急ぎ、第三極の結集を図る考えを強調した>。

<全体会議に同席した石原氏は「大同団結して最初の一戦で戦おう。後は橋下さんにバトンタッチする」と述べ、衆院選後に橋下氏に国政を託す考えを示した。橋下氏は、今回の衆院選出馬を改めて否定した>。

<両者が合意した基本政策は、中央集権の打破▽環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉参加▽新エネルギー需給体制の構築−−など8項目。両者の政策の隔たりについて、橋下氏は「既成政党に比べれば一致している」と、他党からの野合批判に反論した>。

<政策文書によると、消費税の地方税化を改めて掲げ、中央集権の打破の項目に盛り込んだ。税率は11%を目安としたが、増税の是非には直接触れていない。新エネルギー需給体制では、安全基準などのルールづくりを提言し、「脱原発」とは記述しなかった>。

<党人事では、幹事長は松井一郎大阪府知事が続投し、国会議員団代表には平沼赳夫前衆院議員が就いた。太陽は週明けにも総務相に解党を届け出る>。

日本維新の会が太陽の党を吸収合併した。維新の代表は石原氏になり、橋下氏は代表代行に。平沼赳夫氏は国会議員団代表になった。まさに激動の第三極である。

減税日本と合併するかに見えた太陽の党は、維新に吸い込まれて、一瞬で消滅した。維新の柔軟なハンドリングはすさまじく、猛スピードを出したまま、誰も曲がれないカーブを曲がった感じだ。

<一方、1次公認候補者は28〜65歳の官僚や地方首長・議員経験者、医師らで、擁立は21都道府県。1次で80人超の擁立を目指していたが、大幅に下回った。最終目標とする衆院過半数の241人以上は難しい情勢だ。みんなの党との競合は、両党の協議によって複数の小選挙区で回避、2カ所にとどめた。ただ、みんなの江田憲司、維新の松井両幹事長は、選挙区のすみ分けを進める考えを示したものの、合流は否定した>。

みんなの党とは政策で大筋合意し、選挙でも協力するが、合流はしないとのこと。これはこれまで通りだし、これで正しいと思う。

というか、より政策で近いみんなの党とは合流しないのに、より政策で隔たりのある太陽の党を、なぜ維新は吸収合併してしまったのか。維新はここまでは良かったのに、この吸収合併で、少なくとも私は失望した。合流せず、単に協力ならまだわかるが、石原氏や平沼氏を取り込んで幹部起用するというのは、あまり説得力がない。勢力の拡大を優先させて、政策を妥協したというふうにしか見えない。

一定の柔軟性や現実主義は必要だろう。しかし柔軟性もここまで来ると、もはや現実主義を超えて、「なんでもあり」の超現実主義(シュールリアリズム)、あるいはバーリトゥードという感じがする。

こうなると、みんなの党のガンコ一徹ぶりが、逆に光ってくる。一時は維新ブームに隠れ、解党の危機さえ報じられていたみんなの党だが、その政策は結党当初からまったくブレていない。

8月末の「みんなの党と大阪維新の会の違い」にのせた表を、再度見てみよう。



この表について、私はこのように書いた。

<みんなの党は、「政策」については原理主義的(=教条主義的)。つまり、良く言えば信念がしっかりしているが、悪く言えば柔軟性がないので、「この方針に従えない者は出て行け」式になりやすいわけだ。しかし「政局」については現実的で、あまり欲張らずに、着実に支持をひろげていこう、という「ゆっくりペース」である>。

<いっぽう大阪維新の会は、「政策」については現実主義的。良く言えば、状況を見ながら変える柔軟性を持つが(原発再稼動をめぐる方針変更がいい例)、悪く言えば、日和見主義にもなりやすい。しかし「政局」については急進主義的で、次の総選挙で一気に政権に食い込もうとするような意向が見える。ウィキペディアによると、次の衆議院選挙で200人以上の当選をめざしているとのこと。まさに「急進主義」である>。

このエントリと表は、当時みんなの党の支部長だった足立やすし氏のエントリを元にしている(足立氏はその後、日本維新の会に移った)。これを書いた時点では、みんなの党の原理主義的なガンコさに対して、大阪維新の会の現実主義的な柔軟性を私は評価していた。

その後「維新八策」が出て、私はこの内容を素晴らしいと思い(資産課税を除いて)、7回連続で紹介し、コメントした。

その後、大阪維新の会の国政政党は「日本維新の会」になり、一時は冷え込んでいたみんなの党との協力関係も復活した。ここまでは良かったのだ。

維新はなぜ、太陽の党を吸収合併したのか。それはやはり、野田首相が突然解散カードを切り、いきなり総選挙に突入することになって、時間がなくなってしまったからだろう。

ただでさえ、維新は候補者の選抜と育成に時間がかかっていたはずで、それがみんなの党との「復縁」にもつながっていた。そこへさらに、突然の解散である。これで維新は相当うろたえたのではないか。せっかくの「維新八策」を曲げてまで、石原氏を取り込むために、太陽の党を吸収合併することを決めたのだ。

石原氏はアンチも多いが、たしかに一定の人気がある。都知事の実績と、かつては時代の寵児だった栄光も加わり、特に年配の人には人気が高いだろう。少なくとも、ただのマジメな政治家より「目立つ」ことは疑いない。

維新にはおそらく、今回は国政に出ない橋下氏が代表、という党のかたちをできれば変えたかったのもあるだろう。石原氏であれば、知名度も申し分なく、都知事の実績もあり、それなりに華もある。こういう存在は、なかなか得がたいことも確かだ。

これで維新の「顔」が2人になって、マスコミをいっそうひきつけることは間違いない。マスコミをひきつけて、毎日のように維新ネタを書かせることは、なんだかんだいって効果が高い。これから選挙なのだから、これは少なくとも選挙戦略としては正しいのだろう。

しかし、この柔軟すぎる吸収合併により、私のように政策重視のコアな政治ファン(?)からの評価は下がるのではないか。橋下氏はよく「ポピュリスト」と評されるが、「維新八策」の内容などは、むしろ「ポピュリスト」からもっとも遠いくらい、不人気な政策が並んでいた。私のような構造改革派の自由主義者から見れば、「維新八策」の経済・雇用政策などは、みんなの党よりもさらに踏み込んだ部分すらあり、とても良い内容だったと思う。

冒頭の記事では、<両者の政策の隔たりについて、橋下氏は「既成政党に比べれば一致している」と、他党からの野合批判に反論した>、と書かれている。橋下氏らしい、うまい反論である。しかしこれは逆に言えば、これまでの維新と比べて、既成政党に一歩近づいた、とも言える。民主党や自民党のように、政策が大きく異なる人たちがくっついた「寄り合い所帯」に近づいてしまったわけだ。政局での「急進主義」から勢力拡大をあせりすぎた結果、説得力を下げる野合に手を出してしまった、というふうに私には見える。

冒頭の記事につづいて、毎日はさらに踏み込んだ記事を出している。

毎日新聞 - クローズアップ2012:維新、太陽と合流 「大同団結」政策骨抜き 石原氏の「顔」頼み(2012年11月18日 東京朝刊)
http://mainichi.jp/opinion/news/20121118ddm003010134000c.html

<日本維新の会が太陽の党と合流、1次公認候補も発表して衆院選に向けた態勢を整えた。しかし、太陽とは原発など主要政策で隔たりが大きく、石原慎太郎新代表の知名度が目当ての野合という批判は避けられない。一方で全国での候補者擁立は遅れている。連携するみんなの党とは都市部中心の支持層が重なるため、選挙区調整は難航も予想される。前途多難な船出になりそうだ>。

<「民主党にも自民党にも政党を7回も変えた人がいる。人のことを野合と言えるのか」。石原氏は野田佳彦首相が第三極を「野合」と批判したことに色をなして反論した。橋下徹代表代行も「民主党や自民党は消費税や環太平洋パートナーシップ協定(TPP)、エネルギーは僕ら以上にまとまっていない。僕らははるかに一致している」と強調した。2人は、もともと脱原発などで隔たりがあり、他党の批判に神経をとがらせている>。

<しかし、主要政策での差異は容易には埋めがたい。17日に石原、橋下両氏が合意した基本政策は合流を優先し、国民の関心が高い政策で骨抜きやあいまいさが目立つ>。



<橋下氏は大阪市長として「2030年までの原発ゼロ」を表明、みんなの党との政策合意にも脱原発が盛り込まれた。ところが、基本政策には安全基準など「ルールの構築」とあるのみだ>。

<橋下氏は「年代を明記していないが、新エネルギー体制のルール作りをすることになった」と引き続き脱原発を掲げる考えを強調したが、石原氏は「何年か前、電気料金が上がった時は日本のアルミ産業が全滅した」と語るなど、ちぐはぐさは隠しようもない。脱原発は民主党が争点化をもくろんでおり、今後の選挙戦で維新のアキレスけんとなる可能性も出てきた>。

まったく、この記事の通りだと思う。今回の総選挙では、原発も大きな争点のひとつになるだろう。維新はせっかく、「維新八策」でも脱原発を明記していたのに、これを引っ込めてしまったわけだ。TPPは一時ほどの反対論は沈静化したように思うが、原発はいまだにホットな争点だろう。反原発・脱原発の支持者は、これでだいぶ民主党に流れると思う。

このように見てくると、やはり野田首相による突然の解散は、きわめて効果的だったとあらためて思える。それは、主に次の2つの効果があった。

1)第三極の時間的猶予をなくし、今回のような野合や混乱に陥れる
2)民主党から覚悟のない反対勢力を一掃し、「純化」をすすめる

1)によって、太陽の党が減税日本とくっつくとか、やっぱり日本維新の会に入る、といった、絵に描いたような野合・混乱が生まれている。これで第三極がまとまり、勢力が拡大するという方向もありうるだろう。しかし、その野合にあまり説得力がなければ、むしろ支持を失う。少なくとも私から見ると、維新を支持したい気持ちは減ってしまった。

そして、2)も重要である。今回の総選挙では、民主党はもちろん負けるだろう。前回の総選挙では圧勝して、政権交代を果たした。しかし、それはどう見ても「民主党バブル」だった。3年間の政権を経て、そのバブルはいまや影も形もなく、支持率は地に堕ちた。

しかし、だからこそ、民主党は「純化」しつつあるのだ。もう小沢氏もいない。かつて「反小沢派」と呼ばれた人たちが、いまや完全に主流である。そして今回の逆風で、「勝ち馬に乗る」ために民主党に来る人はもちろんおらず、むしろ別の党の「勝ち馬に乗る」ために、流出が止まらないくらいだ。これによって、民主党は勢力としては小さくなるけれども、より政策でまとまる方向に「純化」していく。これは、政策ベースでの信頼をむしろ増すのだ。

民主党への支持はじわじわ盛り返しているそうで、これはわかる気がする。私はこれまで民主党の政策をたびたび批判してきたが、そのように政策的に遠い私ですら、民主党を見直す気持ちが起きているのだから。


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