2010.10.23
いよいよ「派遣禁止」か 雇用規制をさらに強化して、日銀には「雇用の最大化」まで求める民主党政権は、やってることが全部アベコベだ
JBpress - 労働者の地獄への道は官僚の善意で舗装されている 規制強化で派遣・契約社員は失業へまっしぐら
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/4692

<菅直人首相は国会答弁で、労働者派遣法の改正案を今国会で成立させる方針を明らかにした。参議院では与党が少数だが、この法案については社民党と共産党が賛成すれば成立の可能性がある。
 今回の法案では登録型派遣、製造業派遣、日雇派遣が原則的に禁止される。対象となる労働者は現在約90万人いる派遣労働者の半分以上に上る>。

<すでに昨年、政府の規制強化の影響で派遣労働者は24%減り、撤退する派遣会社が相次いでいるが、今回の改正で労働者派遣業というビジネスが成り立たなくなる恐れも強い。
 この規制によって派遣労働者は、正社員になれるのだろうか。朝日新聞社のアンケートによれば、対象となった100社のうち、派遣が禁止された場合に「正社員を雇う」と答えた企業は14社で、大部分の企業はアルバイトや請負に切り替えると回答した。したがって8割以上の派遣社員は職を失って、もっと不安定な身分になる恐れが強い>。

この規制強化は、本当にまずい。日本経済にとって「死の一撃」になるのではないか。

ただでさえ、解雇規制のおかげで日本企業はなかなか人を雇えず、正規・非正規のおかしな格差や、若年層がまともな仕事に就けないなどさまざまな問題が生じているというのに、さらに雇用規制を強化するというのだ。この内容では、ほとんど「派遣禁止」と言っていいだろう。

この規制強化の犠牲になる派遣労働者は、ほんとうに気の毒だ。これが成立したら、失業者が大量に発生することは間違いない。

さらに、悲劇はそこで終わらないだろう。実際に失業者が大量に出てからも、規制強化という政策が間違いだったという反省が起きるのではなく、マスコミもいっしょになって、「クビ切りする企業が悪い」という論調がますます強まるような気がする。そうなれば、日本企業はいよいよバカらしくなって、大企業はいっそう海外流出するし、中小企業は潰れたり、経営する気力を失うだろう。

失業者が大量に出てきたときに、「規制強化という政策が間違いだった」という反省ができるような政権であれば、そもそもこんな「派遣禁止」のようなバカげた規制強化は、はじめからやらないはずだ。もう完全に「規制脳」だから、いくらでも規制を強化していって、そのたびに企業をワルモノ扱いしていく、というのを繰り返すのだろう。すると企業はどんどん海外流出したり、消滅していって、雇用もどんどん減っていき、失業者はみるみる増えていく。冗談ではなく、日本はジンバブエに向かっているように思える。

そして、民主党政権がワルモノ扱いしているのは企業だけでなく、日銀もそうである。日銀は先ごろ、政府や一部政治家からの圧力に耐えかねて金融緩和に踏み切ったが、そのとき海江田経済財政担当相はこんなことを言っていた。

ロイター - 政府内から日銀決定を評価する声、「コペルニクス的転回」とも(2010年10月5日)
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-17528820101005

<菅改造内閣で経済財政担当に就いた海江田経済財政担当相も4日の民放BS番組で、日銀の役割について「雇用の最大化をひとつの使命として盛り込むことは考えられていい」と述べ、現行の「物価の安定」に加えて「雇用の最大化」を政策目的に加える日銀法改正に踏み込んだ。同相は日銀法改正の前に「まだやれることはある」と繰り返しており、日銀包囲網がじわじわと狭まる状況に直面していた>。

雇用規制をますます強化して、雇用を減らし、失業者を増やしている一方で、さんざん日銀を脅して金融緩和させたあげくに、「雇用の最大化」まで日銀に求めるというのだから、驚きである。日銀がいくらカネを刷ったって、「正社員は解雇するな」「派遣は禁止」などとやっているのだから、雇用が増えるわけがない。これを野党の政治家が言うならまだしも、雇用規制を強化している当の政府が言っているのだ。どれだけ「他人のせい」にすれば気が済むのか。

民主党政権は、やってることがまさに全部アベコベだ。日本はただでさえ規制が強く、それが雇用を減らし、産業構造の転換を遅らせ、国の競争力を削ぎ、それが国の将来を悲観させて、いまの経済不調を生んでいる。こうなれば企業はクビ切りするしかないのだが、民主党政権はそれも企業のせいにして、菅首相は日産のカルロス・ゴーン社長の悪口を言ったりしている。企業がクビ切りせざるをえないのは、国の政策が間違っているからなのに、国のトップが企業の経営者を責めるとは、まったくアベコベである。

いっぽうで民主党政権は、この経済不調は「デフレ」であり、それは国の競争力が低下しているのではなく、もっぱら日銀の金融政策が悪いのだという印象を広めている。資金需要がなくて銀行にはカネがあり余っているくらいなのに、日銀に圧力をかけてさらに金融緩和させたうえ、「雇用の最大化」まで日銀に求めるという始末だ。

このように、民主党政権はとにかくアベコベであり、自分たちの政策が悪いせいで問題が悪化しているのを、企業や日銀のせいにしている。もし民主党政権が、自分たちの政策の誤りが問題を生んでいることに気づき、「派遣禁止」や「郵政再国有化」といったバカげた政策を全部やめて、むしろ規制緩和の方向に舵を切れば、一気にすべてが好転するだろう。こうなれば、企業はすぐに雇用と設備投資を増やすので、経済も上向きになり、国の税収も増える。経済が上向きになれば、企業から資金需要が出てくるので、むしろ金利を上げられるくらいになる。

民主党政権は市民運動家や労働組合、弁護士などの出身者が多いようで、「経営」という観点を持つ人材があまりいないように見える。規制を増やすことにためらいがない「規制脳」も、金持ちや経営者を「ワルモノ」と見なすような左翼的な世界観も、こうした政権の顔ぶれ、その人たちのキャリアと無縁ではないだろう。こういう考えの人たちが国の舵取りをすれば、国の経済がうまくいかないのも当然かもしれない。舵取りをする人に考えをあらためてもらうか、それが無理ならば、舵取りをする人を変える必要がある。

民主党政権には、悪いのは企業や日銀ではなく、みずからの「悪政」であることに気づいてほしい。「悪政」が原因であって、「デフレ」はその結果なのだ。「悪政」、つまり制度設計=「構造」が悪いことが日本経済のボトルネックなのであり、そこが解消されない限り、日本経済の「実力」は変わらないし、将来への不安も消えない。それも制度設計者である政府、「ゲームデザイナー」たる当の政府が、企業や日銀をワルモノ扱いして、われこそは正義と思い込んでいるのだから、国の将来はますます不安になる。


関連エントリ:
ポール・クルーグマン「ひどい賃金のひどい仕事でも無職よりマシ」
http://mojix.org/2010/05/12/krugman_hidoi_shigoto
「増税でデフレ解決」だって?冗談じゃない、デフレの原因は政府の「悪政」だ
http://mojix.org/2010/04/14/why_deflation
「規制脳」が止まらない 今度は製造業への派遣禁止か
http://mojix.org/2009/01/10/seizou_haken_kinshi
「規制脳」は国を滅ぼす
http://mojix.org/2009/01/05/kiseinou