2013.04.20
「消費税」という言葉を使わないセールも禁止?アベノミクスは統制経済なのか?
1週間ほど前、こんなニュースが出ていた。

朝日新聞デジタル - 消費税還元セール「禁止」案を猛批判 ユニクロやイオン(2013年4月12日1時52分)
http://www.asahi.com/business/update/0411/TKY201304110498.html

<【志村亮】来年4月の消費増税を進めるため、安倍内閣が小売業者の「消費税還元セール」を取り締まる法案を閣議決定したことに対し、11日、小売業界から批判の声があがった。スーパーや洋服店などが自由に価格を決めたりセールをしたりするのを政府が規制するのはおかしいという主張だ>。

<法案は、小売業者が「消費税還元セール」などとうたって、増税分を上乗せしないで価格を据え置いたり安売りしたりするのを禁じる。また、大手小売業者が増税分を上乗せしないために仕入れ業者に値下げを迫るのも取り締まる>。

<これに対し、「ユニクロ」などを展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は記者会見で「そんな法案をつくること自体が理解できない。先進国のやることではない」と非難した。ユニクロなどでは「(価格を)据え置きで売っていくと思う」とも言い、消費増税分を負担するなどして値上げしないよう努める考えも示した>。

どこかの議員が個人的な思いつきを言った、という程度ならまだわかるが、なんと小売業者の「消費税還元セール」を取り締まる法案を、安倍内閣が閣議決定したとのこと。

デフレを食い止めたい気持ちはわかるが、これではまるで統制経済ではないか。ユニクロの柳井氏が「先進国のやることではない」と言ったとのことだが、まったくその通りだろう。

こんなおかしな法案は、反発を受けて立ち消えになるかと思いきや、なんと今度は「消費税の文言使わないセールも禁止」が検討されているとのこと。

朝日新聞デジタル - 消費税の文言使わないセールも禁止 消費者庁が検討(2013年4月19日14時47分)
http://www.asahi.com/business/update/0419/TKY201304190094.html

<【鯨岡仁】「消費増税還元セール」などを禁止する「消費増税転嫁法案」をめぐって消費者庁は19日、「全商品3%値下げ」「価格据え置き」「3%還元」など「消費税」という言葉を使わないセールについても禁止する可能性があることを明らかにした>。

<衆院の経済産業委員会で、菅久修一・消費者庁審議官が「事実上、消費税と関連づけて値引きなどの宣伝を行っていると判断される場合は禁止されることになる」と述べた。具体的にどんな表現を認めたり禁止したりするかは、小売業者らの意見を聴いた上で、ガイドラインを示すという>。

<この法案は、消費税率が来年4月に5%から8%に上がる際、大手スーパーなどが増税分を価格に上乗せせず、中小の納入業者に税負担を押しつけるのを防ぐねらい。だが、小売業らは「政府が安売りを規制するのはおかしい」と反発している>。

まったく信じがたい。本気でこんなことを検討しているとは、まさに統制経済ではないか。アベノミクスは安売りを禁止して、統制経済をやろうとしているのか?

そもそも、アベノミクスの金融緩和路線自体、私から見れば、一種の「金融社会主義」である(関連:「小林慶一郎「デフレ脱却をめぐる思想の対立」(2004年)」)。みんながお金を使わずに貯めこむのは、政治がダメで将来が不安だからなのに、その不安の要因をなくすのではなく、お金の価値を無理やり減らそうというのだから。

2009年に民主党が政権を獲ったとき、亀井静香氏が郵政・金融相になって、銀行に対して返済を無理やり猶予させるモラトリアムを打ち出した。私はこれも大反対で、当時このように書いた。

「亀井モラトリアム」で日本の「金融社会主義」がさらに悪化すれば、世界標準市場の「土俵」から外れる
http://mojix.org/2009/10/02/kamei_financial_socialism

<「博雅」氏はこの記事の最後の部分で、日本はもともと「金融社会主義」的な傾向が強く、世界標準市場という「土俵」の瀬戸際、「徳俵」で踏み止まっている、という表現をしている。これ以上「金融社会主義」を強めれば、もう日本はマトモな「市場」ではなくなるわけだ。これは私が以前、「日本の問題は「市場の失敗」でなく「政府の失敗」」で書いた見方と同じだろう。日本は金融危機を受けて、世界的な動向にあわせて市場の規制を強める方向に動いたが、もともと日本は規制だらけで自由が不足しているので、これは日本経済を余計ひどくしてしまう>。

こういう「金融社会主義」は、規制好きの民主党であれば、賛同はできないけれども、まあそんなものだろうと絶望しつつ納得できるところもあった。

しかし、せっかく民主党路線を否定して政権に返り咲いた安倍自民党が、アベノミクスの3本の矢のひとつとして、金融緩和という「金融社会主義」をやっているわけだ。日本はつくづく、左右ともに「大きな政府」路線だと思う。

私は以前から安倍氏のリフレ路線には反対で、このブログでもたびたび書いてきた。しかしそれでも、アベノミクスがこれだけ話題になり、株高が起きて、「今度こそ日本経済は復活するかもしれない」という雰囲気を生み出しつつあることは事実だろう。アベノミクスの3本の矢のうち、私は金融緩和と財政出動には反対だが、規制改革・成長戦略が決定的に重要で、これをちゃんとやってくれるならば、総合的にはアベノミクスを支持したいと思っていた。

しかし、規制改革・成長戦略がまだ何も進まないうちから、「安売り禁止」などという統制経済のような話が出てくるとは、ガッカリである。

安倍政権にはぜひ、社会主義的な統制経済ではなく、自由主義的な市場経済のほうに進んでもらいたい。規制改革・成長戦略さえちゃんとやれば、「金融社会主義」などやらなくても、日本経済は復活するし、デフレも解消するはずだ。アベノミクスの3本の矢のうち、ほんとうに必要なのは1本だけなのだ。


関連エントリ:
正しい政策かどうかを判定する方法
http://mojix.org/2011/02/17/seisaku-hantei